佐藤さとるのファンタジーが好き
先日、ネコのキャラクター「ミッフィー」ちゃんの作者、ディック・ブルーナさんと児童文学作家の佐藤さとるさんの訃報が届きました。世界的に有名なミッフィーより、私にとっては佐藤さとるさんへの思い入れが深く、大変残念でした。
小学校高学年の頃、私は当時の担任の先生の影響でかなりの本好きになっていました。テレビや漫画はありましたが、今のようにスマホ、DS、ディズニーランドなどの娯楽がなかった時代です。子どもの知的好奇心を満たすのは映像よりも圧倒的に文字による情報でした。本の世界の魅力は今の自分の想像・創造する力や洞察する力の基礎を作ってくれたと思っています。(漫画も読んでいましたけど、漫画からも大きな影響を受けました。)
伝記や歴史物が好きだった私にとって、佐藤さとるさんの作品は新鮮でした。児童文学のファンタジーの先駆けといわれる作品群は不思議な世界観をもって小学生の心をとらえました。村上勉さんの挿絵も佐藤さとるワールドを的確にとらえた素敵な絵でした。ファンタジーというと今はゲーム的なものや映像を想定したものが多いのですが、佐藤さとる作品はもっと素朴なものです。特に代表作のコロボックルシリーズはすばらしく、読後、自分の周りにコロボックルが走り回っているような感覚にとらわれたと、多くの人が語っています。物語の舞台は町であっても、すこし離れたところに小山や小川、森林がある世界で、コロボックルシリーズを身近に感じたのはまだ、徳丸にも野原や空き地や林がたくさん残っていたからです。少年が主人公になる作品が多く、感情移入しやすかったせいもありますが、テレビの戦隊ものも卒業したころで、「人」」や「自分」に思いを向ける年齢だったこともあったのでしょう。クラスの友達とコロボックルシリーズを読むのがブームのようになったことを今も懐かしく思い出します。後年、自分が教員になったとき、学校の図書室に佐藤さとるさんの本が一冊もないことに気づき、すぐに蔵書に加えましたが、今も、かの作品は読まれているのでしょうか。
情報が今のように氾濫していると子どもは何をどう整理していいのかわからないため、わかりやすい映像を好み、読書という自分から積極的にその世界に入ることをしない傾向にあります。いや、子どもというより若い世代というべきか。大学生の一日の読書時間が0分とか(SNSの時間は160分でしたっけ)、出版業界の低迷とかを耳にするとそう感じます。小中学生は朝読書の時間がある学校もありますし、保育園では日常的に絵本に触れていますから。
自分の子ども時代だけでなく、今読んでも存分にその世界に浸れる佐藤さとる作品に、これからも沢山の人に読んでいただきたいです。 園長 田中 裕